神奈川県と宮城県が公開している航空レーザ測量(LiDAR)のデータから、陰影起伏図と標高の色分けを作り、航空写真に重ねて見られる地図を作った。川崎市の生田緑地周辺と、仙台市の広瀬川沿い(国際センター付近)で試している。まだ社内の試作で、公開はしていない。
■背景と目的
- 衛星画像を使って地表の変化を確かめる検証をしていて、その土台として地形を細かく知りたかった
- 衛星データの種類(光学・SAR・LiDAR)を調べるなかで、航空レーザの測量結果を自治体がオープンデータで公開していることを知った。レーザの一部が木の葉のすき間を抜けて地面まで届くので、森の下の地面の形まで分かる
- テレビで、富士の樹海を飛行機からレーザで測った地図を見た。あれを自分の地域でも見てみたかった
■使ったデータ
- 川崎:神奈川県「令和4年度横浜北部、川崎3次元点群データ」(2022年度測量、CC-BY)
- 仙台:宮城県「3次元点群データ」2023年版(CC BY 4.0)
- どちらも、建物や樹木を取り除いた地面の標高を1m間隔の格子に整えた「グリッドデータ」を使った。配布は東西1km×南北750mの区画ごとで、2km四方を見るのに9区画(30MB前後)
- 背景の航空写真は国土地理院の地理院タイル(全国最新写真)
- 位置がずれていないか、国土地理院の標高APIと14地点ずつ比べた。差の中央値は川崎が0.10m、仙台が0.05m
■陰影起伏図の「暗い所」は低い所ではない
最初は陰影起伏図だけを作った。北西から光を当てたとして、斜面の向きで明暗を付けた図で、生田緑地の谷が細かく入り組んでいる様子がよく見える。
ところが地図を眺めていて、真ん中の暗い部分は凹んでいるのかと気になった。標高で確かめると逆で、暗い帯は尾根の南東側の急斜面だった。光と反対の南東を向いた斜面は、高さに関係なく影になる。
数字で見ると、2km四方の中でいちばん暗い部分(約12ha)は、傾斜の中央値が30°、斜面はおおむね南東向きで、標高は範囲全体の中央値より7mほど高かった。
陰影起伏図だけでは、高い・低いを読み違える。そこで標高の色分けを足し、最初に表示する図もこちらにした。
■標高の色分けで決めたこと
- 色は淡い黄から濃い赤茶への同系色にした。青・黄・赤のように色相が変わる配色は目立つが、どの色が高いのか順番が分かりにくい。明るさがほぼ等間隔で暗くなるよう、計算で調整した
- 色の範囲は地区ごとに決める。仙台は標高差が14〜151mと大きく、全体に合わせると、段丘どうしの数mの差が薄い色の違いにしかならない。平らな所の標高を数えると大半が20〜62mに収まっていたので、仙台は20〜60mに固定した。60mを超える青葉山は、いちばん濃い色になる
- 地図上にカーソルを置くと(スマートフォンではタップすると)、その地点の地面の標高を0.1m単位で出す。色だけでは数mの差は読み取れないため
- 画面には「地形の参考表示」と書き、ハザードマップや現地確認を促している。色で安全・危険を示すことはしない
仙台は、広瀬川が段丘を削って流れている様子が、色の境目にはっきり出た。カーソルを動かすと、川沿いが約22m、段丘の上の市街地が約44m、青葉山の斜面が約79mと、段の高さが分かる。陰影起伏図でも、市街地を横切る段丘の崖が線になって見える。
■技術構成
- 処理(Python):numpy・rasterioで区画をつなぎ、Hornの方法で斜面の傾きを求めて陰影を計算する。Web地図の座標系(Webメルカトル)に変換して画像にする
- 地図(JavaScript):Leafletで、地理院タイルの航空写真に画像を重ねる。サーバー側の処理はなく、静的ファイルだけで動く
- 標高の読み取り:標高を0.1m単位の整数にしてPNGの色に埋め込み、ブラウザでキャンバスに描いて画素から戻す。元データとの差は、95%の地点で0.2m以内
- 見るための画像はWebPにした。標高の色分けは8.9MBから0.8MBに減った。標高を読み取る画像だけは、値が変わらないようPNGのまま
- 地区は設定ファイルに1件足せば増やせる。神奈川県は区画番号からURLが決まり、宮城県は索引のCSVからURLを引くので、そこだけ切り替えている
■使えそうな場面
地面の標高が1m間隔で分かると、現地に行く前の机上の下調べに使える。思いつくものを挙げる。
- 不動産開発・土地の取得前の調査:候補地の傾き、前の道路や隣地との高低差、敷地の近くにある崖や急な斜面を、現地に行く前に一通り見ておける。昔の地形図や過去の標高と比べれば、谷を埋めて平らにした造成地の候補も探せる。現地でどこを重点的に見るかを、先に決めておける
- 太陽光発電の用地選び:広い範囲から、傾きが緩くまとまった土地を候補として絞り込む。1mの標高から傾斜を計算できるので、航空写真だけでは分からない緩い起伏も拾える
- 工場・倉庫・店舗の周りの確認:拠点が周りより低い位置にあるか、背後に斜面があるかを地形で見ておく。ハザードマップとあわせて、大雨のときに確認したい場所の洗い出しに使う
- 盛土や造成の把握:2つの時期の標高を引き算すると、地面が高くなった所・低くなった所が分かる。国の既存盛土の調査でも、航空レーザと過去の標高の差から盛土の可能性がある場所を抜き出す方法が示されている。2021年の熱海の土石流では、静岡県の公開点群を使って、崩れた盛土の範囲と量が災害の直後に推定された
- 地域サイト・まち歩き:仙台の河岸段丘のように、まちの成り立ちを地形で見せられる。坂の多い地域や、昔の川の跡が地形に残っている地域の紹介にも使える
どれも机上の下調べの話で、地盤調査や測量、行政の判断の代わりにはならない。最後は現地と専門の調査で確かめる前提で、「どこを見に行くか」を決めるための道具だと考えている。
■使わなかったもの
- 赤色立体地図:細かい地形がよく見える表現だが、作り方はアジア航測の特許で、営利目的で使うには許諾が要る。自由に使える陰影起伏図と標高の色分けにした
- 衛星のLiDAR:NASAのICESat-2やGEDIがあるが、軌道に沿って線状に測るだけなので、街を面で見る用途には向かない。欧州のコペルニクスの衛星には、LiDARを積んだものがない
■所感
- 航空レーザのデータは想像以上に細かい。グラウンドの平らな面や、宅地の段差まで写真とぴったり重なる
- 公開状況は自治体ごとにばらつく。今回は神奈川県と宮城県を使ったが、東京都(23区)や静岡県も公開している。国土地理院の1mメッシュの標高も、提供範囲が広がっている
- 「暗い=低い」の思い込みは、実際に眺めてみて初めて気づいた。作る側に当たり前のことが、見る側には通じないことがある
■今後
- 衛星画像で見つけた変化の候補と重ねて、斜面の上にあるものから確認する、といった優先順位付けに使いたい
- 上のような下調べに使えるよう、住所や範囲を入れると、傾斜や周りとの高低差を1画面にまとめて出す形を作りたい
- こすぎナビにも載せられないか検討する。武蔵小杉は平らな低地なので、色の範囲を狭くして、わずかな高低差が見えるかを試したい
土地や拠点の地形の確認を、業務の画面や社内システムに組み込みたい方は、お問い合わせからお気軽にご相談ください。
■出典